「夏休み」第16回創作テレビドラマ脚本懸賞公募選考
佳作一席受賞の過程 「シナリオ・マガジン」ドラマ1991年11月号から

日本放送作家協会主催 放送文化基金助成 NHK 日本放送出版協会後援
第16回創作テレビドラマ脚本懸賞公募選考結果発表
入選    梶本恵美
佳作一席  斉藤俊雄
佳作二席  米村憲治

社団法人、日本放送作家協会主催、放送文化基金助成、NHK、日本放送出版協会後援による「第16回創作テレビドラマ脚本懸賞公募」の最終審査会は9月18日NHK放送センター708リハーサル室で開かれ、右記作品を選出した。表彰式は10月22日。東京六本木の日本放送作家協会で行われる。

最終審査員は次の客氏。
日本放送作家協会=阿木翁助、西澤實、水原明人(担当常務)、津川泉、市川森一、窪田篤人、高橋玄洋、竹内日出男、布施博一、横光晃
NHK=中村克史(ドラマ部長)、山本壮太(チーフプロデューサー)、田代幾四郎(同)、渡辺鉱史(同)、平山武之(同)、菅野高至(同)、金沢宏次(同)、山岸康則(同、書面)、広田健三(同)
以上

選考過程
今回の応募作品は682篇。一次から四次審査まで日本放送作家協会所属の作家たちによる選考の結果、次の15編が最終審査作品として残った(編集部注・3時通過作品は42頁に掲載) ※自分以外の名前と職業は省略します
「別荘家族」
「ピアノが聞こえない」
「夏休み」 (31歳 教員) 斉藤俊雄
「遙かなる海に」
「冬の街から」
「葬式巡り」
「蝉しぐれ遠い夏」
「そして、愛」
「タックンの場合」
「HOME SWEET HOME」
「団十郎はここだけ」
「ネオ東京・夢の後」
「嗚呼!ネクタイ族」
「春むかし」
「はっけ、よい!」

今回は最終選考に15篇という異例に多い作品が残されたため、選考に先立って、まず討議に値する作品の数をしぼるため作業が行われた。その結果、次の5作品が選外に落ちた。
「ピアノが聞こえない」 不支持票 13票
「蝉しぐれ遠い夏」    同    13票
「タックンの場合」    同    14票
「ネオ東京・夢の後」   同    16票
「嗚呼!ネクタイ族」   同    13票

次に、討論の目安として、残る10作品の中から審査員一人一人が無記名で、上位3本の作品を推薦する投票が行われた。その結果は次の通りであった。
「別荘家族」             推薦票 6票
「夏休み」             同 6票
「遙かなる海に」         同 3票
「冬の街から」             同 9票
「葬式巡り」              同 1票
「そして、愛」                 同 2票
「HOME SWEET HOME」  同 3票
「団十郎はここだけ」    同 11票
「春むかし」         同 10票
「はっけ、よい!」     同 6票

以上の票数を参考に、若干の討論を経て比較的支持票の少なかった次の4つの作品が、選外に去った。
「遙かなる海に」「葬式巡り」「そして、愛」「HOME SWEET HOME」
この中で、沖縄生まれの日本人でありながらアメリカ海兵隊に入り、ベトナム戦争に参加した青年の二十年後の姿を描いた作品「HOME SWEET HOME」には、一部審査員の「この段階で落とすのは残念」という声もあった。

こうして残された6本の作品について、各審査員からさまざまな意見が述べられた。
「別荘家族」は、団地に住むサラリーマン一家が遠隔地に週末のための別荘を買うが、結局はその別荘をもてあまし、夫と妻子の間に破局が来るという話し。現代サラリーマン家族の姿を描いて、その哀れさが身につまされる、という声もあったが、結末が弱い、家族を突き放して書いてない、という点がマイナスとなった。

「夏休み」は今から五十年前に舞台を設定し、やがて来る戦争や一人一人の悲惨な運命も知らず、小学生最後の夏休みの思い出を作るために森に集まった子供たちの幻想的な物語。その発想は面白く不思議な魅力を湛えた作品で、内容にいくつかの欠点はあるが、作者の才能にある種の可能性を感じるという評が多かった。

「冬の街から」は、バングラデシュから来日した不法就労者の青年と父親を過労死で失った女子高生の交流を通じて、現代の我々を取り巻くさまざまな問題に迫ろうとした意欲作。これを書こうとした作者の気持ちはよく判るし、そのひたむきな姿勢に好感は持てる。しかし、この種の問題に経験の深いある審査員から「見方が甘い。現実はもっと厳しい」という反論が出たのと、主人公の2人をあまりに正義派にしすぎてリアリティを欠くという意見があった。

「団十郎はここだけ」は、パソコンゲームのプログラマーをしている若い女性と、同じマンションに同居する幼なじみのOLの二人が、一人は江戸を舞台にしたゲームの開発に熱中し、一人は会社の環境対策プロジェクトのメンバーに選ばれたのをきっかけに、現代のマンション生活と江戸時代の長屋暮らしの違いから環境破壊について考え始める、という話。大変達者な筆致でセリフもうまく、今風の軽いタッチで一気に読ませる筆力は認める。若い人にはこれが一番受けるだろうという評が多かった。しかし、逆に言うとそのうまさ、軽さがマイナスになる。ラスト近くの環境問題の取りあげ方もセリフだけのおしゃべりにすぎないし、その切り口も甘い。脚本を読んで感じる面白さが実際の映像になったときに出るだろうか、という演出面からの疑問も出された。

「春むかし」は、京都に住む76歳の女性と、シカゴに住む小学校時代の同級生の男性の海を越えた愛情物語。シルバーセックスをテーマにした作品は、最近のコンクールでもしばしば見かけるようになった。これも時代というものだろうが、その中でこの作品の特徴は、素材の面白さと全体に漂う品のよさだろう。アメリカの日系老人のための福祉センターと京都の一家が交互に出てくる構成もうまい。予算面での検討が必要というのが制作上の問題としてあげられた。

「はっけ、よい!」前述の作品と全く逆なのがこの「はっけ、よい!」で、少し盛りが過ぎた往年のトップモデルと、将来を有望視されながら怪我のため幕下で相撲を廃業せざるをえなくなった18歳の少年が、ひょんなことから奇妙な共同生活を始めるというこの話は、風変わりな組み合わせとヤングドラマ特有の軽いノリで、すぐにでもドラマ化できるという声があった。しかし、いかにも内容がなく、突っ込みが足りない。

以上のような討論が行われた末に、今度は審査員の一人一人が1位、2位、3位と順位をつけて投票することとなり、次のような結果が出た。

「別荘家族」         1位 0 2位 2 3位 5
「夏休み」        1位 3 2位 2 3位 4
「冬の街から」         1位 1 2位 3 3位 2
「団十郎はここだけ」 1位 6 2位 6 3位 2
「春むかし」      1位 9 2位 5 3位 2
「はっけ、よい!」   1位 0 2位 1 3位 4

この数字を基にさらに話し合いが行われ、ほぼ全員納得の上で
入選    梶本恵美
佳作    斉藤俊雄
佳作    米村憲治

という順位が決定した。尚、「団十郎はここだけ」で佳作となった米村憲治氏は、前回の佳作一席「にらまれたい」の作者で、これで米村氏は二回連続の佳作入賞となった。

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